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東京高等裁判所 昭和50年(行コ)34号 判決

控訴人(原告) 医療法人財団健康文化会

被控訴人(被告) 東京都板橋都税事務所長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和四七年五月三一日付をもつてなした控訴人の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度の法人事業税に関する更正処分並びに被控訴人が昭和四七年八月一〇日付をもつてなした控訴人の昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの事業年度の法人事業税に関する更正処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する陳述及び証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示のとおりである。(但し、原判決の二枚目表一行目と四行目に「法人税」とあるのをいずれも「法人事業税」と、同六枚目裏末行目に「所属金額」とあるのを「所得金額」とそれぞれ訂正し、同八枚目表九行目に「訴状」とあるのを削除する。)

控訴代理人は、

昭和三八年四月二二日付東京都主税局長通達第五〇八一号において、公益法人等及び人格のない社団等(以下両者をあわせて公益法人等という)で医療保健業を行うものにつき、地方税法第七二条の一四、第一項但書により算定した法人事業税の課税標準が法人税の所得をこえ、または欠損金に満たないようなものがあるときは、同法第七二条の三九の規定による更正決定分として処理すべきものとされているが、右通達は、同法第七二条の一四、第一項但書を形式的文言どおりに適用すると、同本文を適用したときより不利益となる場合を生じ、法人事業税のうえで社会保険診療分の所得につき優遇措置を定めた右但書の立法趣旨に反することになるので、右但書に関する従来の解釈を変更し、これを合理的に解釈適用しようとしたものであるから、右通達の趣旨は当然医療法人にも及ぼされるべきものである。

と陳述し、証拠として、甲第一号証(写)、第二号証の一、二、第三、第四号証、第五号証の一、二、第六号証を提出し、当審証人伊藤一良の証言を援用し、後記乙号証の成立をいずれも認めると述べた。

被控訴代理人は、

地方税法により法人事業税が創設された当初においては、公益法人等が行う医療保健業に対しては法人事業税が課せられなかつたので、医療保健業を行う公益法人等は医療法人より優遇されていたが、昭和三二年の地方税法施行令の改正により公益法人等が行う医療保健業に対しても法人事業税が課せられるようになつたところ、公益法人等には地方税法第七二条の一四、第一項但書が適用されないため、公益法人等が行う医療保健業については自由診療分の所得のみならず、社会保険診療分の所得についても課税されることになり、従来とは逆に公益法人等が医療法人より重い税負担を負うことになつた。しかし、医療法人に対し社会保険診療分の所得について法人事業税を課さないこととした前記地方税法第七二条の一四、第一項但書の立法趣旨は、公益法人等が行う医療保健業についてもあてはまることなので、昭和三二年一二月二一日付東京都主税局課税部長通達第九九九七号により公益法人等が行う医療保健業に対しても右但書を適用し、医療法人と同様に取扱うものと定められ、その後控訴人の主張する東京都主税局長通達第五〇八一号により第九九九七号通達が修正され、公益法人等が行う医療保健業につき区分計算後の課税標準が法人税の所得をこえ、または欠損金に満たないようなものがあるときは、同法第七二条の三九の規定による更正決定分として法人税の課税標準に合わせることと定められ、その後右第五〇八一号通達の趣旨は昭和四五年五月一日同局長通達第五〇〇号に引継がれて今日に至つているものである。以上のとおり、第五〇八一号通達及び第五〇〇号通達はいずれも公益法人等が行う医療保健業の法人事業税の課税標準の算定に関する取扱いを定めたものであつて、公益法人等が行う医療保健業と医療法人とでは、法人事業税創設の当初より課税標準の算定につき異る取扱いがなされていたのであるから、右第五〇八一号通達及び第五〇〇号通達により、公益法人等が行う医療保健業につき医療法人と異る取扱いがなされることもなんら違法ではなく、右各通達が地方税法第七二条の一四、第一項但書に関する従来の解釈を変更したものでないことはもとより、右通達の趣旨を医療法人に及ぼすべきものということもできない。

と陳述し、証拠として、原審で提出した乙第二号証の一ないし三を撤回して同号証の一ないし四を提出し、更に同第六及び第七号証の各一ないし三、第八、第九号証を提出し、当審証人山本芳就の証言を援用し、前記甲号証の成立及び甲第一号証の原本の存在をいずれも認めると述べた。

理由

当裁判所は、被控訴人がなした本件各更正処分は適法であつて、右更正処分の取消を求める控訴人の請求は棄却すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

控訴人の主張する昭和三八年四月二二日付東京都主税局長通達第五〇八一号(右通達の存在については当事者間に争いがない。)の趣旨について検討するに、成立に争いのない乙第二号証の一ないし四、第六及び第七号証の各一ないし三並びに当審証人山本芳就の証言によれば、地方税法により法人事業税が創設された当初においては、公益法人等が行う医療保健業に対しては法人事業税が課せられていなかつたが、昭和三二年同法施行令の改正によつて課税されるようになつたものであるところ、公益法人等には同法第七二条の一四、第一項但書が適用されないため、公益法人等が行う医療保健業については自由診療分の所得のみならず、社会保険診療分の所得についても法人事業税が課せられることになり、医療法人より税負担が重くなつたのみならず、医療法人に対し社会保険診療分の所得について法人事業税を課さないこととした右但書の規定の立法趣旨は公益法人等が行う医療保健業にも当然あてはまるものと考えられ、昭和三二年一二月二一日付東京都主税局課税部長通達九九九七号により、公益法人等が行う医療保健業についても社会保険診療分については医療法人と同様に取扱い、この場合の課税標準の算定については同法第七二条の四一の規定によることと定められたが、公益法人等につき医療法人と同様の区分計算をした後の法人事業税の課税標準が同法第七二条の一四、第一項本文を適用した場合に比して不利益となるときは現行法上問題があるため、前記の昭和三八年四月二二日付東京都主税局長通達第五〇八一号によつて第九九九七号通達を修正し、公益法人等で医療保健業を行うものにつき、区分計算後の法人事業税の課税標準が法人税の所得をこえ、または欠損金に満たないようなものがあるときは、同法第七二条の三九の規定による更正決定分として取扱うことと定められたものであり、その後右第五〇八一号通達の趣旨は昭和四五年五月一日東京都主税局長通達第五〇〇号に引継がれていることが認められる。

右認定によれば、第五〇八一号通達及びその趣旨を引継いだ第五〇〇号通達は、いずれも公益法人等が行う医療保健業についての法人事業税の課税標準の算定に関する取扱いを定めたものであつて、地方税法第七二条の一四、第一項但書の解釈に関するものではないのみならず、地方税法の上で公益法人等とでは法人事業税の課税標準の算定に関する規定を異にする医療法人に対し右通達の趣旨を及ぼすべきものということもできない。原本の存在及びその成立に争いのない甲第一号証中これと異る趣旨の見解は当裁判所の採用しないところであり、他に医療法人について第五〇八一号通達と同様の取扱いをなすべきものとする控訴人の主張を肯認すべき根拠とするに足る資料は存在しない。

よつて、原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第一項により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本元夫 輪湖公寛 後藤文彦)

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